建築家。1956年横浜生まれ。東京大学建築学修士修了。1991年、青木淳建築計画事務所(2020年、ASに改組)を設立。代表作に、「馬見原橋」(くまもと景観賞)、「S」(吉岡賞)、「潟博物館」(日本建築学会賞作品賞)、「ルイ・ヴィトン表参道」(BCS賞)、「青森県立美術館」、「大宮前体育館」、「三次市民ホールきりり」など。公共建築、商業建築から個人住宅まで、広範な建築ジャンルでの設計のほか、美術家としてインスタレーション作品の制作など、ジャンルをまたいで活動を行なっている。2005年芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。京都市京セラ美術館リニューアル基本設計者(西澤徹夫との共同)であり、2019年4月より当同館館長に就任。東京藝術大学建築科教授。
建築について
像を重ねていく美術館
青木 淳
京都市京セラ美術館 館長
京都市美術館本館は、現存する日本の公立美術館の中でもっとも古い建築です。創建は1933年、いわゆる帝冠様式を代表する建築で、以来、第二次世界大戦をまたいで80年余り、京都市民をはじめ多くの人の記憶に深く刻み込まれてきました。
建築そのものは動かず、変わりません。しかし、それを見、経験する人々が心に写しとるその像は、時とともに変化していきます。建築とはこうして、多重露光された像が幾重にも折り重なり、豊かな襞がつくられていくものです。そのことを大事にしつつ、それを現代に生きる空間として整備しなおそうとする試みは、今後、ますます重要なこととなっていくと思われます。今回の京都市美術館の大規模な改修は、その点で大きな意義と責任を持っていることを痛感しています。
この計画を進めるにあたって私たちは、すでにこれまでに重なってきた像の層を引き継ぎ、そこに新たな一枚の像を加えようとしました。そうすることで、この建築を守りながらも、そこに別の様相を出現させられないか、と考えたのです。
なかでも大事にしたのは、西側・神宮道側の前広場を広場として残すことと、この建築がもともと持っている西玄関から東玄関を貫く軸線を強めることでした。
まず西側・前広場と本館建築の間に切り込みを入れ、手前の中央を押し下げ、前広場をごく緩い傾斜で中央に向かって下るスロープ状の広場に変えました。このことにより、神宮道からの本館の景を変えないままに、エントランスを1階西玄関からその地下に移しました。広げられた切り込みにはガラスを嵌め、新たな空間「ガラス・リボン」を生みだし、ミュージアム・ショップやカフェの用にあてました。
地下エントランスを直進し、かつては「下足室」として使用されていた空間を通り抜けたところには大階段を新設し、中央ホール(旧大陳列室)、東玄関、さらにその先の東山を望む日本庭園までにつながる一直線に伸びる強い軸線空間を挿入しました。この美術館に埋め込まれていた軸性を引き出そうとしました。
またこれまで南北2つの中庭を占領していた設備機器を廃し、南中庭を本来の中庭に戻す一方で、北中庭にガラス屋根を懸け室内化しました。ここでも、いつしか隠されてしまっていたこの美術館の可能性を発掘しようとしました。
全館のための設備機器置き場として、また現代美術に対応する新たな展示室を新設するために、美術館北東に位置する川崎清氏設計による増築部「収蔵棟」を新館に改築しました。大きなボリュームで出現する新館は、煉瓦タイルの本館の特性をある位相では引き継ぎ、またある位相では切断し、付かず離れずの関係に置こうとしました。
こうして私たちは、新旧の対比を生み出すことを目指す改修とはまったく異なる、より繊細なもうひとつの改修の道を築こうとしてきました。
*注 川崎清(1932-2018):建築家、京都大学名誉教授。京都における作品に「京都市勧業館みやこめっせ」、「相国寺承天閣美術館」などがある。JR京都駅の国際設計コンペ審査員長を務めた。
当館の受賞について
このたびの当館の大規模リニューアルプロジェクトについて、1933年(昭和8年)創建の公立美術館として国内現存最古の美術館建築である歴史的本館を、保存しながら新たな機能・魅力を付加したことが評価され、下記の賞を受賞いたしました。
2020年9月 第8回京都建築賞「最優秀賞」
2020年10月 グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」
2020年12月 第30回日本建築美術工芸協会賞「AACA賞(最優秀賞)」
2021年1月 第10回耐震改修優秀建築表彰「耐震改修優秀建築賞」
2021年3月 日本建築家協会優秀建築選2020「JIA日本建築大賞2020」
2021年4月 2020年照明普及賞
2021年4月 2021年日本建築学会賞(作品)
2021年11月 第1回日本建築士会連合会建築作品賞「優秀賞」
建築家
青木 淳Aoki Jun
西澤 徹夫Nishizawa Tezzo
建築家。1974年京都府生まれ。東京藝術大学美術学部美術研究科建築専攻修了。青木淳建築計画事務所を経て、2007年に独立。代表作に、「東京国立近代美術館所蔵品ギャラリー」リニューアル、「八戸市新美術館」があるほか、住宅建築やリノベーションなども手がける。また、「ヴィデオを待ちながら」、「パウル・クレー展」、「Re:play展」 (以上、東京国立近代美術館)など、展覧会の会場デザインも多数。