冨田渓仙《宇治川之巻ー伏見》

宇治川之巻ー伏見 1915年

冨田溪仙 (1879-1936)

作品解説

滔々と流れる川には舟が出て、あちこちで水車が絶え間なく回っている。岸にはちらほら柳と白壁の蔵が見え、蔵は巻末の泊にはことのほか立ち並んでいる。京都市南部、伏見の水運とその恵みの賑やかな風情がいきいきと描かれる。
宇治川之巻は宇治橋・伏見・木幡・天ケ瀬の4巻組として描かれ、京都市美術館では宇治橋と伏見の巻を所蔵する。作者は京都に出てまもなく伏見界隈に住み、しばしば近隣を散策していたという。近代化とともに変化しながら歴史を感じさせる風土に郷愁を覚えていたのかもしれない。伏見の巻に描かれる水車や柳は宇治川を象徴する景物として江戸時代から受け継がれたものであり、時代の波の中で描きとめておきたい風景であったのだ。

1915年(大正4年)
絹本着色 巻子
50.4 × 524.6 cm

冨田溪仙 Tomita Keisen

福岡市に生まれる。本名鎮五郎。はじめ狩野派を学び、京都に出て都路華香に入門、各種展覧会に出品ののち第6回文展入選を果たすと、これが横山大観の認めるところとなり、院展に出品、日本美術院同人となって以後院展中心に活動する。四条派から次第に南画の画境に傾く。フランス大使ポール・クローデルとの交遊でも知られ、詩画集の合作がある。帝国芸術院会員。

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