エキシビジョンクルーズ

荒木優光パフォーマンス
「ゾンビとサウンドトラック」

2021年4月23日

ザ・トライアングル「荒木優光:わたしとゾンビ」の関連プログラムとして、パフォーマンス「ゾンビとサウンドトラック」が1月10日に美術館の講演室で開催された。1月7日に政府が首都圏に緊急事態宣言を出したばかりのタイミングであったこともあり、密にならないよう工夫しながらの公演となった。1時間ごとに20分ずつ計5回の公演をおこなったが、延べ142人が直接会場に参加し、約50人が配信動画を閲覧し。上演中の出入りは自由だったが入場制限をしていたため、部屋の外から覗く観客が出るほどであった。また、当館のYouTubeチャンネルで初となる同時上演もおこなった。(当日の配信動画はこちら

日時 : 2021年1月10日(日)13:00〜、14:00〜、15:00〜、16:00〜、17:00〜/各20分程度
会場 : 京都市京セラ美術館 講演室(本館地下1階)
ディレクター : 荒木優光(出展作家)
出演 : 穐月萌、植松幸太、前谷開、諸江翔大朗、甲田徹、林実菜、松見拓也、福岡想

 

ゾンビとサウンドトラック

会場の様子(出演者は自らカメラを持ち撮影。床に座って撮影しているのが荒木優光。)

荒木優光は音を扱うアーティストで、録音した声や物音などを複数のスピーカーから再生させ展示空間に配置することでその場に独特の気配を立ち上がらせる。

録音する際に、ある存在の音だけが記録される。その場から切り離されて別の場所で再生されるその音は、彼にとって一度死んで蘇る「ゾンビ」だった。その「ゾンビ」が今回のパフォーマンスの主役である。 会場となった講演室には、8台のスピーカーが空間のあちこちに様々な方向に向かって設置されていた。講演室には同時通訳をする際に使う小さなブースと控室が隣接している。普段は扉や大きな窓枠の裏側で死角となっているそれらの部屋も今回のパフォーマンスの想像力を掻き立てる「舞台」に含まれていていた。扉の向こうから漏れ聞こえるゾンビの声や物音、また実際には動いていないが聞こえるドアノブをひねる音が、その場にゾンビが近づいてきているように感じさせる。

モニターの様子(映像には動くゾンビの手が合成されている)

会場内をあちらからこちらへ移動する音に怯える俳優たちの演技があたかもホラー映画の場面が展開されているかのようで可笑しいのだか、ゾンビはあくまで気配のみであり、ゾンビ役の俳優は登場しない。しかし俳優が時折手にする自撮り棒の先にはカメラがあり、そこで撮影された映像は会場内に設置された左右のモニターで見ることができる。モニターには目の前で恐怖に慄く俳優が映り込んでいるのだが、その脇にはゾンビの手が彼らを追いかけるように動いている。ただそのゾンビの手も機械的に繰り返されるグラフィックであり、その粗雑さゆえに必要以上に感情移入させられることはない。その場を撮影するカメラマンの存在やモニターに映る映像を切り替えるスタッフの姿、さらにはアクティングエリアの中央で繊細な身体の表情やピントがボケたような抽象度の高い映像を撮影し、会場に映し出す荒木の姿も含んだ出来事全てが、その場で起きている奇怪さを際立たせていた。

荒木優光による会場構成図

(文:京都市京セラ美術館 事業企画推進室 ラーニング)

 

 

出演者・スタッフ プロフィール

ディレクター

荒木優光(あらき・まさみつ/アーティスト/出展作家)
1981年山形県生まれ。2005年京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映像・舞台芸術学科卒業。シアターピースやインスタレーションなど多岐にわたる作品を発表。主な公演に「おじさんと海に行く話」(京都芸術センター講堂、2018年)、「増幅する部屋」(愛知県芸術劇場小ホール、2018年)、主な個展に「Acoustic Device 騒音のための5楽章」(トーキョーワンダーサイト本郷、2016年)など。サウンドデザイナーとしてアーティストとのコラボレーションも多数手掛ける。

出演

穐月萌(あきづき・もえ)
印刷会社勤務。元巫女。2017年より『中川裕貴、バンド』に楽器を演奏しないメンバーとして参加。2020年より同メンバーで旅仲間の出村弘美と共同制作を行う。公演「出村弘美と穐月萌のマジカルミステリーツアー」を実施。

植松幸太(うえまつ・こうた)
京都・錦林車庫前のライブハウス「外」にて音響とブッキング。レーベル「HEADZ」にてA&Rとしてgoat、空間現代×Moe and ghostsなどの作品を担当。2020年末より京都を拠点とする新たなレーベル「Leftbrain」を開始。

前谷開(まえたに・かい)
1988年愛媛県生まれ。自身の行為を変換し、確認するための方法として主に写真を使った作品制作を行う。2018年、記録にまつわる作業集団「ARCHIVES PAY」に加入。2019年より山中suplexに居住。主な展覧会に、「六本木クロッシング2019 展:つないでみる」(森美術館、東京、2019)などがある。

諸江翔大朗(もろえ・しょうたろう)
役者・パフォーマー。学生時代に現代芸術家である高嶺格に師事し、同氏の舞台作品に多数出演。他、多数のアーティストの作品に参加。また、Ubereats配達員としてNHK「クローズアップ現代+」に出演。『記録』にまつわる参加型作業集団「ARCHIVES PAY」所属。

 

音響

甲田徹(こうだ・とおる)
サウンドエンジニア。音楽のレコーディングや舞台の音響など、音に関係する様々なことに携わる。自身のバンド「白黒ミドリ」ではベースを担当。

林実菜(はやし・みな)
1994年愛知県生まれ。大阪芸術大学短期大学部を卒業後、音響家として活動。

 

映像

松見拓也(まつみ・たくや)
写真家、デザイナー。1986年神戸市生まれ。2010年よりcontact Gonzoに加入、2015年からbonna nezze kaartzを毎月発行している。

福岡想(ふくおか・そう)
京都府出身。京都造形芸術大学(現京都芸術大学)卒業。舞台やイベント等の映像演出オペレーションや撮影など、映像に関する活動に携わる。

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