2020年、新型コロナ禍とぴったりと重なってしまったリニューアル・オープンでした。それから5年、この春、当館はその間の経験を生かして、次の一歩を踏み出します。
もとから日常生活のなかにさまざまな文化が息づく京都です。美術館は、その息吹を受け止め、それに加わり、その豊かさを多くの人と分かち合っていく、広く開かれた場です。
そのような場を《テラス》と呼び、それを移転の基本コンセプトとしたのは、京都市立芸術大学でした。《テラス》とは、内から外に張り出して、人と人びと、人と自然とを触れあわせる共有空間です。そして、複数の世代、異なる関心をもつ人びとが、地面から少し浮いた板敷きの場所で(つまり、目下の利害関心から自分を外し)、自分たちの現在と子どもたちの未来を語りあう場です。
京都市京セラ美術館は、その目標を共有しています。例えば、手作りの“展覧会”を「つくる」ことなどを通して、子どもたち、今まで興味はあっても来れなかった人びとを含め、多くの人びとが、つどい、つながり、交わりあう場としてさらに進んでいきたいと考えています。ひきつづきよろしくお願いします。
2025(令和7)年4月
京都市京セラ美術館 館長 青木 淳
1933(昭和8)年、「大礼記念京都美術館」の名で開設され、現存する日本の公立美術館建築の中で最も古い京都市美術館。2020年のリニューアルを機に、京都画壇の日本画など京都が誇る名品を広くご紹介する「コレクションルーム」を新設しました。また、現代アートを中心に多様な展覧会を開催する新館「東山キューブ」を整備し、この間、民間部門の力を活用しながら展覧会を企画運営。新進作家を支援する「ザ・トライアングル」、「学び合い」をキーワードにしたラーニング・プログラムなども展開し、美術館の魅力や価値向上を実現してきたところです。
リニューアルから5年目を迎え、2025(令和7)年4月には、美術館活動の基盤をなす学芸部門を直営に一元化し、さらなる企画力の強化をはかります。同時に、広報や資金調達等の業務は引き続き民間部門と連携し、より効果的・効率的な館運営に努めることとしています。
沿革
オープンからの歩み
1928年(昭和3年)に京都で挙行された即位の大礼を記念し、「大礼記念京都美術館」として開館。関西の財界や美術界、市民の寄付により、鉄骨鉄筋コンクリート2階建ての帝冠様式建築の本館が建設された。設計は、「建築様式ハ四囲ノ環境ニ応ジ日本趣味ヲ基調トスルコト」などの要件の公募によって選ばれた建築家、前田健二郎。こけら落としの展覧会は「第14回帝展京都陳列会」。
開館記念「大礼記念京都美術館美術展」開催。開館を祝し大礼奉祝会から多くの作品が寄贈。
全国に先駆けて、市主催の総合公募展として「京都市美術展覧会」(第1回市展)開催。

1938年の「土田麦僊遺作展覧会」
第二次世界大戦中も美術館活動を継続。本土空襲を受け、作品の一部を嵯峨・大覚寺などに疎開。
「第9回在住作家作品常設展」中に終戦。戦後すぐ「第1回京都市主催美術展」(第1回京展)開催。
戦後には駐留軍が本館を含めた敷地全体を接収。大陳列室はバスケットボールのコートに。
6年におよぶ接収解除。「京都市美術館」と改称し新たに活動再開。
京都画壇10作家の代表作による「開館記念京都名作展」開催。
海外展の先駆けとして「ルーヴル国立美術館所蔵フランス美術展」巡回。
京都の若い美術家による「京都アンデパンダン展」が京都市主催に。(1991年まで毎年開催)
「ミロのヴィーナス特別公開」で89万人余りが来場。開館以来の入場者数記録を樹立。
「ツタンカーメン展」で107万人余りが来場。入場者数記録を更新。
収蔵棟を新設。竣工記念特別展「京都日本画の精華」開催。
「第1回京都ビエンナーレ」開催。1973年、1976年と第3回まで開催。

1988年の「特別展 1930年代の京都——日本画、洋画、工芸」会場風景
「京都の美術 昨日・きょう・明日展」シリーズがスタート。(2008年まで全28回)
開館70周年。記念特別展「うるわしの京都 いとしの美術館」開催。
開館80周年。記念特別展「市展・京展物語」「下絵を読み解く ~竹内栖鳳の下絵と素描~」開催。
「PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015」開催。(当館をはじめ、京都文化博物館など京都市内計8箇所が会場に)

蔡國強《京都ダ・ヴィンチ》2015「PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015」京都市美術館会場での展示風景 写真:河田憲政
再整備の流れ
再整備の方向性を示す「京都市美術館再整備基本計画」策定。
公募型プロポーザルで、19の応募者から青木淳・西澤徹夫設計共同体が1位で基本設計作成者に選出。
通称を「京都市京セラ美術館」とする50年間のネーミングライツ契約を京セラ(株)と締結。同年、改修・増築工事のため一時閉館。
施設名の由来
今回の再整備事業を通じて、歴史的な本館は保存・継承しつつ、現代アートに対応した新館「東山キューブ」や新進作家の支援のためのスペースの新設、カフェやミュージアムショップなどのアメニティ施設の充実も図り、機能が飛躍的に向上した美術館として生まれ変わりました。多くの方々に長年待望されていた京都市美術館の再整備事業を市民負担を抑えつつ着実に推進するため、京都市ではネーミングライツ制度の導入を決定。趣旨に賛同いただいた京セラ株式会社から約50億円の支援を得て、通称を「京都市京セラ美術館」とする50年間のネーミングライツ契約を締結しました。
ロゴデザインのコンセプト
・関西を拠点に国際的に活動するグラフィックデザイナー、杉崎真之助氏によるデザイン。
・和文と欧文の一体感を意識したモダンなタイポグラフィで、国際文化都市・京都を表現。
・個性を主張しすぎないシンプルさで美術館の品格を伝えるとともに、文字の一部に輝きを表すスリットを加えて印象付けている。
京セラ株式会社
京セラ株式会社は、創業以来、「企業は社会の一員である」との認識に立ち、さまざまな活動を通じて、世のため人のために尽くす集団であり続けたいと考え、文化芸術、スポーツ等の地域に根差した社会貢献活動を幅広く実施してまいりました。このたびの再整備事業の趣旨に賛同し、文化芸術の発展を通じて、京都の更なる活性化にいささかなりとも貢献できるのであればとの思いから、ネーミングライツ契約により再整備事業を支援させていただくことといたしました。日本を代表する美術館として、また市民の芸術表現の場として、これまで以上に市民から愛される施設となることを期待しています。